前半二句を欠いているが、兼続の漢詩の中では最も有名なもの。
作詩時期は不明。
北に帰る雁に、自分の境遇を重ねている。
花を待たずに北へ帰る雁と、都の華やかな花の季節に背を向けて、北へ向かう自身と。
ここでいう「花」とは、具象物としての「花」を言っているばかりでなく、都における全ての「華やかなもの」(政治だとか都の文化だとか)を指しているような気がする。
そうしたあらゆる「花」に背を向けて北へ向かわんとする…「背」の一字に、一つの堅い決意を感じる。
堅い決意を持って、兼続が北へ向かった時期とは…?
米沢移封の時かとも思ったが、残念ながら、彼が米沢に赴いたのは、冬11月。
もう一つ、上杉家および兼続の大きな転換期は、秀吉による会津移封。主君景勝は120万石の大大名に封じられたとはいえ、生まれ故郷を離れて新天地へ赴いたのだ。しかも、この時会津へ赴くべく都を発ったのは春3月。あるいはこの時の作だろうか。
|