兼続の漢詩

山家◆





大岩は枝垂れるほどびっしりとツタを絡ませている。世塵を避けて、そうした山中の古びた住居に独り身を置いている。白雲が深く立ちこめ、行く人も少ない。壁のように切り立つ崖や、幾重にも折り重なった峯が四方を取り囲んでいる。


「峭壁」とは壁のようにそば立った崖、「攢峯」とは峯が幾重にも集まっている状態をいう。これらの言葉といい、第三句の「白雲深處」といい、神仙郷を髣髴とさせるような情景描写である。
第一句に「避世塵」とあることから、世俗を避けてそうした山奥に住まっているのである。
大岩にツタが絡みつき、枝垂れている様子は、人を寄せつけない雰囲気さえ漂わせている。

けれども、人里はなれたところとはいえ、完全に俗世から遮断されているわけではない。「行人少」とあり、道行く人は少ないけれど、全くいないというわけではないのだ。
気の置けない友人が時折おとなっては、取り留めのない話をして帰ってゆく、ということだろうか。好きな書を読み、詩作をし、時はゆったりと流れて・・・・

そんな暮らしはあるいは兼続自身の憧れであったのかもしれない。
現実にそのような生活を送るべくもないが、せめて詩作の世界においてならば理想郷で遊ぶことを誰も咎めたりはしないだろう。


「亀岡文殊堂詩歌百首」の中の1首。




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