兼続の漢詩


〜出逢ってしまった二人〜

「逢恋」


 
 風花雪月情に関せず―自然の優なる風物も、情愛の前ではまるで色あせてしまう―
 なんという激しい愛の表現であろうか。

 四季の景観に触れ、それをめでる風流を持ち合わせている兼続であるが、情の前ではそれらはもはや、愛でるべき対象になりえない。

 はからずも出逢ってしまった二人は、この時、この瞬間を精一杯いつくしむ。

 人間の本能であるところの「性」であるが、「性」は「生」に通じている。「慰此生」には、生きることに貪欲なまでの姿が感じられる。

 むさぼるように「生」を愉しみ、すべてをかけるようにして一夜の契りを結んだ二人だが、朝を迎え、別々の道を歩き出す。お互いに何事もなかったように。

 それでも我々は山河に永遠の誓いを立てたのだ、誰もあずかり知らぬことであろうが―


 この詩に描かれた男女の行く先は、安穏たる光明に包まれているものとはとても思えない。哀切な色彩を帯びた危うい関係でありながら、どこか力強ささえ感じる。

 儚い契りであるからこそ、出逢った「今」と真剣に向かい合おうとする姿勢が、この詩に力強さを添えているのだろう。


 兼続自身の実体験か否かの詮索は、野暮というものであろう。

 詩に描かれた世界を味わうことで、彼の生き様を垣間見ることができるような気がする。

 そこには、上杉家の宰相という立場を離れた、一介の人間であるところの兼続の存在を認めることができる。




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